D.J.Fullutonoさんの新連載、楽しく読ませていただいた。このジャンル・シーンに関してはD.J.FullutonoさんをはじめとしたBooty Tuneのメンバーの方々の知見は世界レベルで貴重な気がするので、情報の文章化は非常にありがたい。
この記事の冒頭で2000年前後のダンス・ミュージックについてチラリと触れている。
ダンス・ミュージックの歴史をいろいろ振り返ると、2000年前後って凄く重要な時期だったんじゃないかと、いまになって思います。エレクトロニカ人気が猛威を振るった時期です。90年代中期からテクノ/ハウスなどのダンス・ミュージックに没頭した僕も、オウテカやキッド606といったIDM/エレクトロニカ勢にはワクワクさせられました。周りを見渡すと、いままでテクノ一辺倒だった人が変則的なビートやアブストラクト・ヒップホップ、フューチャー・ジャズ、または音響系に興味が湧いたり、ニューウェイヴっぽいエレクトロが再評価されたり、ブレイクコアがハードコア好きを巻き込んでシーンを形成したり、結構カオスな時期だったと思います。
これ、ホント同感で、ボクもこの時期、幸運にもいろんな音楽に触れることが出来たし、ひとくくりに「ダンス・ミュージック」と言ってもホント様々な見方があるんだな、と今でも強烈に印象に残る作品が多く生まれていたように思う。
Warp RecordsのA.I.シリーズやベッドルーム・テクノの先に、色々なジャンルからのクラブ・ミュージックへの参入(流入?)しやすい土壌ができていて、おかげでけっこうかわった作品がリリースされるようになったのではないだろうか。クラブで聴く感じじゃないけど、なんだかやたらオシャレな感じで天使が微笑むと恋が始まりそうなサウンドがたくさんあって、そういうのがとても好きだった。
たまたまタイミングを同じくして、ディスク・デシネでプッシュされていたDumbo Gets Madの1st Album(ちょう良い!!!)を聴いていたら、これまたなんてサイケデリック・ドリーミング・ポップなアルバムだろうとため息が漏れた。
と、同時に、そのサイケデリックでドリーミングなポップ感が、さまざまな過去の名盤を彷彿とさせて、こりゃちょっとセットで聴きたい案件だなって思ったので10年以上聴き続けてもどうしても色褪せない5枚をカオスな2000年前後(というか前)からピックアップしてみた。
Akasha『Cinematique』
大ビッグビートブームで知名度が高かった英Wall of SouldからひっそりリリースされたAkashaの1st。ラウンジ・ミュージックと言えばいいのだろうか、ゴージャスなムード漂うトラック満載。中でもNeneh Cherryをフィーチャーした、まさかのガンズ・アンド・ローゼズのカバー『Sweet Child Of Mine』はもっともっと多くの人に聴かれるべき名カバーだと思う。
Akasha - Sweet Child Of Mine (Feat. Neneh ...
Locast『Morning Light』
ベルギーの名門R&S(当時からR&Sを紹介する時、かならずこの枕詞ついてましたよね)の傘下Apolloからリリースされたこのアルバム、シューゲイザー感もうっすら感じるポップアルバムで、ドラムン・ベースを通過したリズムの上にこれまた漂う音の感じが気持ち良く、カーペンターズの『Hurting Each Other』をサンプリングした『No-One In The World』の夢見ごこちがたまらない。
Locust - No-One In The World (Morning Light Mix ...
Kid Loco『Grand Love Story』
当時やたら「Kid ◯◯」って人いたような気がする。で、その「Kid ◯◯」ってだいたい良かった気がする。そんな「Kid ◯◯」の中でも特に好きだったのが、仏Yellow Productionsからの本アルバムがヒップ・ホップ〜トリップ・ホップ文脈とフレンチ・ポップの見事な融合を果たしたこの人、Kid Loco。このアルバムをむっちゃ気に入ってKid Locoが好きになり、さらに彼が担当した『DJ Kicks』(これまた良いDJ Mixシリーズです)の世界観がハンパなく良くて、この「ムードで聴かせるMix」の感じは憧れだし、今聴いてもむちゃくちゃカッコいい。
Kid Loco - Love Me Sweet - YouTube
Combustible Edison『Four Rooms: Original Motion Picture Soundtrack』
いわゆるダンス・ミュージック文脈ではないもののこのアルバムはちょっと無視できないし、評価されて欲しいと願ってやまない突然のサントラ。
当時ブレイク後飛ぶ鳥を落とす勢いだったタランティーノが同世代の監督を集めてつくった大晦日のホテルを舞台にしたティム・ロス主演のオムニバス・コメディのサントラなんですが、タランティーノがらみのサントラということで注目したら、1枚まるまる聴いたこともないバンドのオリジナルトラックで、これがモンドというかラウンジというかサイコーに良かった。時期的に渋谷系なんかともシンクロする世界観ですが、全然色褪せないアルバム。映画もポップでオモロイ。
Four Rooms Theme Song - YouTube
Air『Moon Safari』
のちに映画『ヴァージン・スーサイズ』のOSTをまるまる手がけることになるフランスの2人組のヒットアルバム。ヒットシングル『Sexy Boy』をはじめ、ゆるゆるなダンス・ミュージックとスウィートなラウンジ感満載で、人間を辞める前のDaft Punkと共にちょっとしたフレンチ・クラブ・ミュージックブームみたいなのを背負っていた。いったいどのシーンに属してて、なんてジャンルの音楽って言えばいいんだろう感じが本当にたまらなくて、1stとこの2ndの持つ空気感はまだまだこれからも楽しみ続けると思う。
これらのアルバムは、remixやele-king誌など当時クラブ・ミュージックを紹介してくれていた雑誌を通して(Four Rooms以外は)クラブ・ミュージックの流れで出合ったものだけど、クラブで聴くことはあまりなく、ほぼ自分の半径1メートル以内で聴こえるような聴き方をしていた。そして、なんとなくどこにも属せないようなその雰囲気が、どこかやり場のない悶々とした気持ちみたいなものも内包していたような気がして、間違いなく2000年前後のカオスな時期の一面をあらわしていると思う。