Yacht Rock(ヨットロック)というジャンルをご存知ですか?
私が一番初めにそれを耳にしたのは、山崎まどかさん&長谷川町蔵さんの『ハイスクールU.S.A.』だったか『ヤング・アダルトU.S.A.』だったかちょっと記憶が定かではない*1のですが、なにやらオモロいジャンルがあるからいつかちょっと聴いてみよう、と頭の片隅にとどめていました。
で、ふと思い出して調べ始めてすっかりハマった!
まずはChannel 101のYacht RockのサイトかYoutubeでシリーズを出来れば全て観て欲しいのですが、これ、テレビの音楽バラエティ・コメディ番組なんです。
とってもざっくり言うと、かつて一世を風靡したAOR、ではなく“Yacht Rock”*2の珠玉の名曲たちの誕生エピソード*3を紹介するモキュメンタリー。出てくるアーティストなりバンドは(役者が演じていますが)実在するし、その曲も(おもいっきりリップシンクしていますが)実在するものなので、正確にはモキュメンタリーとも呼べないかもしれない。
これ、チープなテイストで70年代後半から振り返る再現VTRが本当にオモロくて、残念ながら字幕は存在しないのですが、そういう番組だとわかって見ればそのパロディ化っぷりがとっても笑える。
もちろん笑えるだけじゃなく、そこで流れる名曲たちがスムース・ミュージックというテーマでくくってあって、本当に心地よく紛れも無く名曲たちなので、観ているうちにその音にもグッと来てしまった。
「ヨットロック」について調べると、番組のサイトやそれに関する情報はいくつか見つかるので、まずは番組で使われた曲を中心にという感じでコツコツ曲を調べて聴きだしました。Apple Musicにもこんなプレイリストがありがたいことにあった。
アメリカでジャンルとしてのAOR(アダルト・コンテンポラリー)がどういう扱いなのかはわかりませんが、私は勝手に大いなる偏見でフワフワしたジャンルだなぁと食わず嫌いしていました。また過去に実際に耳にしていたもののテレビCMだったりの印象と合わさってあまりイケてないなぁと思っていたのですが、それはかなり大きな間違いで、偶然にも先般の『ハートカクテル』とあわさって、この番組のおかげでここへ来てYacht Rock/AORが一気にグッと来ています。ハマっています。ようやく聴く耳の準備ができたということでしょうか。こういうコンピも耳に嬉しい。
そこで、番組に出て来たものなど、Apple Musicでサラッと探して聴いていたのですが、AORの中でどこまでを(あるいはどれを)スムース・ミュージックとしてのYacht Rockと呼ぶか(呼びたいか)、というかAORってどれくらいあるんだ?と調べていたらまんまと沼にハマった。
専用のガイド本が出ているくらいのボリュームのある(当たり前か)ジャンルで、凝った音がザクザク出てくる。キリがないとわかりつつも、ここまで来たからにはついでだ、とばかりにApple Musicで聴けるAOR(と思われるもの)を自分用ブックマークとして、片っ端からリストアップしてみました。全部で108アルバムあります。煩悩の数との関係は偶然でしょう。いちおうAORと思わしきものが並んでいるはずですが、素っ頓狂なものもあるかもしれません。そのへんはご容赦のほど。
私自身まだまだ入門者なので、ここに上げたアルバムをひとつひとつ聴いていきながら、これはYacht Rockっぽいぞ?とか、いやそもそもこれもAORなの?みたいなことを考えながら、ガマンできなくなったらガイド本*4の購入なども検討しつつYacht Rock/AORの世界に浸ってみたいと思います。
※追記:普段あまり聴いてこなかった範囲なので入門者なりの感想をそれぞれに140文字以内で、特にお気に入りには文末に☆をつけてみようとおもいます。量が量なのでどこまでやるかはわかりません。38/108
1975
隣に座って囁きかけるようなヴォーカルはアーシーでありながらどこ吹く風。ロビー・ロバートソンプロデュースの本作は、10のポップなグルーヴもありながら、3、5、12などのやや綺麗なトム・ウェイツ風吟遊詩人なムードも抜群です。AORというよりアシッドフォークとして楽しんでます。
イメージと違う!驚くのはメイクだけじゃないH&Oの4th。日本でいうチャゲアスの元祖みたいなフォークテイストからポップの王道に鎮座まします二人。ザ・ポップな1で幕を開け、2、5でしっとり、3、6のお茶目なグルーヴでチラチラ目配せして、7、11、12で珠玉のスムースをキメる!☆
元トラフィックのギタリストのソロ。これだけ音とジャケットのイメージが完璧なのもスゴい、そういう音です。ほどよいレイドバック感で泥臭くなりすぎず「英国ブルーズマン、アメリカを行く」という理想的な融合感があります。初期の時点でAORってこんなに完成されていた奇跡のアルバム。☆
古き良きクラシカルロックのバラエティに富んだアルバム。Yacht Rock的なスムースさと言うよりは、普遍的スムースさ、スムースの先輩といった趣きがあります。大人っぽさに関しても同じく地に足がついた感はAORを遥かに先取りしていた、と言えなくもないです。まさにスムースの父。
1976
Mr.AOR、ボズ・スキャッグス。一聴した印象は「あぁ、まさにそういうのだなぁ」とあまり良くない印象だったんですが、何度か聴いているうちにその底知れぬ良さにズブズブ沈んでいく感があります。既に固まっている良くない方のAORのイメージを内側から壊していく、そんなアルバムです。☆
メローとスムースのスプリット盤を作ったらこうなるという教科書のように見事にメローサイドとスムースサイドがわかれている作品。2、3、7、8のスムース感は私の理想とするYacht Rock感にとても近く思わず身体が揺れ動きます。時代を先駆けたAORアイスバケツチャレンジ!☆
タイトル曲1がキラーチューンすぎるジャズギタリスト・ジョージ・ベンソンの大ヒットアルバム。ムード音楽くらいスムースを突き詰めてる2といい、存在を消してBGMになれるくらいの軽さの中にあるしっかりした芯がスッと耳に滑り込んでくるそんなフレージング。これがオトナの優しさ。☆
全員口を揃えて言う「スティービー・ワンダー!?」。なのにLAロックなデザインだし、ヴァレンティという芸名(本名はリヴィグニ)はその『ダイ・ハード』の名悪役アラン・リックマン風ルックスからに違いない!特に3、5、7、11のグルーヴィさはスティービーのベスト!ってくらいの良作。
ジャケットに相反してアコギ爪弾くオープニングのネスカフェ風メローから、大きく入るピアノの美メロなど、綺麗なポップスかな?フォークロックかな?ソフトロック?とその座りに迷いながらもミディアムな6や8、10のキャッチーさでシッカリとYacht Rockテイストに寄せてくる。
1977
超名盤として名高い本作。映像に例えるなら『2001年宇宙の旅』から受ける印象ような、ディスカバリー号の内部のデザインの様な音がします。少し聴いて引っかかったらぜひヘッドフォンで。ツヤツヤに磨かれた音に浸れます。最適な入門盤にして最高峰みたいなアルバムなので末長く楽しみます。☆
ムーディーなジャズボーカルやボサノバにも似た優しい曲というのもAORの中に見られる魅力の一つ。このアルバムはそういう優しさで出来ていて気前がいいので半分なんかじゃなく全部が優しい。目的はただ一つスムース&リラックス、その為だけに聴かれるべき大らかな水面のようなアルバムです。
レイドバックした雰囲気に包まれた快適アルバム。1、2、6のドライブとタイトなリズムが心地良いYacht Rockと言えるかもしれないが、全体的な印象はキレイなサザンロックという感じ。80′sクラプトンなんかに似た印象です。埃っぽさはなくヨットハーバーの陽射しが似合いそう。
実直な保安官っぽい表情のジャケットから想像し得ない甘く美しい声で、普段要領わるい朴訥な人が忘年会で歌い出したと思ったら全員ウットリ、フォーキーなアルバム。2、3、9の天使のような郷愁や4、6、7で見せる憂いの魅力もタマラナイ。ジョー・コッカーで有名な5のアレンジもトロける…
メキシコ&インディアンの血をひくセリシオとハワイアンのカポノの3rd。その野獣のような毛むくじゃらの風貌からは最も遠いビーチのゆうべのようなほのかに潮の香り漂う艶やかな曲満載。カバー曲4も良いが、5、6、7、8などのスムース+郷愁感は思わず目を細めるジャングルクルーズ。
日本では長らく山下達郎の英詞パートナーとして有名なアラン・オデイ。6、7、8をはじめ、ジャケットのそこはかとないひょうきんさと人懐っこい表情のようなキュートで職人の気の利いたオシャレの様な渋カッコいい曲満載。ジャケットの裏地に使いたい布No.1なアルバム。こういうの超好み!☆
イントロから溜息漏れる極上のスムース1や5など、ネルドリップのごとくスローなグルーヴにこのグループの良さが溢れています。この深煎りで粘着質な感じはやはり黒人グループ独特な美しさなんでしょうか。7のような痛快ファンクチューンもあったりします。なかなかの甘い香りです。
ベテラン女性シンガーを、デヴィッド・フォスターが記念すべき初プロデュース、オールスターラインナップで引き立てる本作は半分がカバーで手堅さも感じますが、軽快さがザ・ドライヴな1、ボッサ調の4、グルーヴィーな6、ムーディーなジャズバラードの9とオリジナル曲にこそ魅力が満載です。
これぞYacht Rockなインテリアの部屋で頭を抱えてテレビを観るアンドリュー、ナイス・スムースの中にも一癖も二癖もある変態ポップス。『自画像』という邦題がついたらしいが、爽やかな音にも苦悩が見られるジャケットへの解釈か。3、9などのギターの味わいがクリスピーでとても良い。☆
やっぱりスゴいビリー・ジョエル。行き届いた味の濃淡のバランスっていうのか、さすが大物だなぁって貫禄ある。飛ばし過ぎず抑え過ぎすあくまでスムーズ…。アルバム全体だけでなく曲単位でもそれご徹底されていてジワジワ骨身に沁み入る。耳馴染みありそうな2、3以外こそ是非聴いて欲しい。☆
1978
ジャジーなウッドベースのイントロが耳を掴み壮大に始まる1から一気にパーソナルに映る2への美しい流れでノックアウトされる美メロ満載ポップアルバム。参加メンバーがとにかく豪華でミュージシャン以外でもジョン・ランディス、キャメロン・クロウ、キャリー・フィッシャーなんて名前も!
このアルバムが代表作ではないという点でこのバンドの底知れぬ実力が伺えるマリファナ兄弟(バンド名そんな意味らしい)。M・マクドナルド期のスタートを飾る2を始め眩しさすら感じるスムース曲満載名盤。スッキリした声なのに少し太めに出す様なボーカルが中深煎りの美味しいコーヒーのよう。☆
私のイメージではCMなどの影響でMr. AORはこの人。改めて知らない曲たちを聴いていくとその声のホーン的な艶やかさにウットリする。他でなら繋ぎ曲的にすら聴こえるミディアムテンポの曲もAOR的にはド真ん中の本領発揮の場。それを片っ端からジャストミートさせるサスガはミスター!☆
これはもちろんヨットロックではなくその敵対チームとして出て来そうなザ産業ロックの音色ですが、メタル耳からするととても素直なハードロックという感じで、むしろこれをAORの枠に入れても良いのかしら?と変に心配してしまいます。しかし3といい極上なスムースが雑に混じっててズルい!
HM/HRバンドRainbowのヒット曲『Since You’ve Been Gone』や『I Surrender』の作者でソングライターとしても大活躍だったラス・バラードのAOR布陣のアルバム。泣きのメロディたっぷりのHRアルバムという感じですが、そこで好みが分かれそう。
なんだこのアルバム!?これぞスムースというべき軽快なファルセットとカッティングギターで幕を開ける1に思わず息を飲み、そのまま途切れず続く2もメローで心地良さを通り越した極上の無味無臭なポップ感!まさにそこがたまらなく癖になる!全曲バラエティに富み、まるで麻薬の如く虜にさせる…☆
Yacht Rock界のダース・ベイダーがまだ暗黒面に落ちていなかった頃の輝かしい想い出。個人的にはあまり歌い上げずにソフトタッチに歌っているのがこの人は好きなんで、全体的に程よく好きです。アルバム内では特に4くらいノホホンとした曲の時にその艶が引き立つと思っています。
1979
豪ファンクバンドの4th。ブルー・アイド・ソウルにも感じることですが、いわゆる本場から外れる事で出るグルーブとスムースネスはハマると中毒性高い。このバンドも聴きやすさ抜群で、ルパン三世のテーマくらい親近感溢れるファンク・ジャズが多く、日本との相性ムチャクチャ良さそうです。
これまたかなり守備範囲が広いアルバムで、スウィング・ジャズみたいな曲まで入っている。ゴージャスなコーラスワークのおかげで若干のQueenっぽさも感じる。トワイライトゾーンのカバー?のコスモ感がヤバくてスムースというよりビザールなAORといった印象を受けました。オモロい。
POP一直線!デシネなんかで取り扱ってそうな程良く力の抜けたポップさ。ホーンなども入ってきますが、フュージョン側にもロック側にもそれほど寄らず、やや渋のボーカルととても合う。この細やかな気遣いのようなバランス感覚は評価大。良い意味でカフェミュージックです。セクシーだなぁ!☆
クセの強いボーカルに好みが分かれそうなスティーブ・ギブは、AORというよりもエルトン・ジョンやニルソンを思い起こさせるメロウネスが特徴のようで、頭をそちらにシフトさせた方が断然聴き良い。ヨットな感じでは無いものの黄昏の哀愁という大きな共通の武器を持っているピアノマンである。
1980
天高く舞い上がってしまいそうなハーモニーのポップロックで始まる本作は、私にとっては良くも悪くもイメージ通りのAOR(not Yacht Rock)。R&B色は薄くHard Rock色を強めたThe 80′sな音とバリエーションの豊かさは少しスムースからは離れるかも。
名曲『セイリング』収録のこのアルバム、なんというか掴みの上手い人という印象を受けました。どんな曲にもハッとするフックなりサビなりが入っていて流し聴きでもふと気をとられる。なに寄りみたく感じさせずフラットなポップだけどチープでは無い「良い曲」を作る人。バランス感覚がスゴい。☆
1のパラパ、パッパ、パッパパ♪いう軽快なハートカクテルっぽさ、80s POP王道!という感じは今聴くとむしろ味わい深い。続く2、5、6、8も軽快に飛ばし、あと半分はシットリ。みんな見事にミディアムテンポで、ナイス・スムースである。グラミー新人賞にもノミネートされた。
これぞ全曲スムースの極み!スローなグルーヴでジワジワ滲みよるムード溢れる1、2、4、ミディアムテンポの軽快さに身体動かされる3、5、7、変わり種リズムが楽しい6にシットリ締める8と全てが職人肌で全く無駄がない!スター選手がいないのにいつも勝てる采配の妙、そんな激渋アルバム!☆
1981
ジャンルを跨ぐ時、派手に乗り込んで行ってカマすのではなく、注意深くお互いの主張を取り入れ、そこに最良の譲歩としてのスムースが生まれる、フュージョンからAORへの接近の本作でその大人としての対応力を感じます。スライのカバー8をはじめ、ミディアムテンポにクールなファンクネス!
1982
ジャケからも漂いますが、ひたすら穏やかなアルバム。演奏メンバーが同年発売の『Nightfly』とほぼ同じらしく、似てる印象も少しは受けますが、もっとサラサラと流れていく感じ。逆に静寂の中のシャッフルビートみたくファンキーさが潜んでいるような3や5は変な興奮を覚えますね。
こんな快適なアルバムはあっただろうか?そのイントロが流れるだけで確実にスムースの世界に連れて行かれるスムース・ミュージックのメッカ。まさに深夜のラジオ番組のように親密で、有名なジャケや究極のサウンドメイキングなどがたとえ語り尽くされたとしてもこれから何度も聴くであろう超名盤☆
1983
Contemporary Christian Music(CCM)というジャンル、初めて聴いたのですが、確かにAORと合うのかも。メローというよりソフト、全編キレイにまとまっていてR&B色はあまり感じられないピュアなロックという感じ。ボーカルが平井堅さんの声に似てます。
1984
1985
ビル・ウィザースがAORにやや接近したアルバムのようだが、1、2、6にその印象を感じるものの、シティ・ソウルという聴こえ方も十分するので、ビルそもそものムードがAORと親和性があるものだったと思われる。テンション的にはレゲエと言った方が良さそうな6はサンシャイン!って良さ。
1986
1987
1988
1989
1990
ちなみにグラフィカルなYacht Rockのイメージはありきたりですがこんな感じです。⛵️
Dubstronica さんの Pinterest ボード「Yacht Rock」をフォローしましょう。
*1:どちらもむちゃくちゃ名著なので映画・音楽関わらず必読の2冊です。眼から鱗がボロボロです。
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*2:もちろん架空のジャンル
*3:もちろんデッチ上げ
*4:このジャンルを深く聴き知る上でのバイブルにあたる本なようで避けて通れない…!
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