『Theater 1』というJuke/Technoユニットがいる。
このTheater 1は日本のJuke/Footwork界を牽引してきたD.J.FulltonoとCRZKNY*1の二人が結成したユニット。突然現れて、まるでベーシック・チャンネルのように匿名性の高い良質なリリースを不気味なまでにコンスタントに続けており、私はすっかり魅了されてしまっている。
毎回タイトルに「x/12」とあるからには12リリースされる予定なのだろうと想像出来るが、現時点ですでに6EP12Tracksがリリースされており、アルバム1枚分の上質なミニマリズムあふれるJuke/Technoトラックを彼らのBandcampで聴くことが出来る。
カテゴライズなんて無粋と思いながらも、この「Juke/Techno」という紹介の仕方にとても大きな存在感があると感じている。
私がこの音に興味を持ったのは、自分の興味が160TO120という、Juke/FootworkとTechnoやHouseの音をポリリズムと言うにはとても不思議な違和感を持ってMixする楽しみを持ったのがキッカケだった。
私のDig力の無さも手伝って、コレをやろうとしてしっくり来るTrackを探すことが出来ず悶々としているところへ彼らの音が耳に届き、飛びついた。
はじめこそ160TO120として喜び勇んで聴いていたのだが、しばらくするとその枠すら上手く収まらない不思議な魅力に改めてとりつかれることとなった。
今まで耳にしていたJuke/Footworkと比較すると、ストイックなまでに匿名性の高いビートと頑固なリズムパターン、それはある時代のMinimal Technoが持っていたそれにとてもよく似ていて、リッチー・ホーティンのMinusやオランダのAudio.nlなどが私のアタマに思い浮かんだ。
TechnoとJuke/Footworkは、1990年代後半からクラブミュージックに親しみ現在に至っている人であれば、同じ大きな流れの中で出会える音楽だと思っている。そこで、そういえば、とふと思い出した。
CRZKNYが2014年にリリースしたこのアルバムを聴いた時「完全にテクノだ!」と思った。当時のDJの際にこのアルバムの1曲目の後にThomas Schumacher「When I Rock」*2を繋げて勝手に納得していた。とても多作かつバリエーションに富んだリリース*3で知られるCRZKNYなので、当時はこういうこともモチロン出来るんだな、と思って自分のアタマの中のJuke/Footworkの棚から少し離した所にこの強烈なアルバムを置いておいた。
今改めてこのアルバム『Dirtying』を聴いてみると、BPMこそ160でタフに進んでいくものの、ここで聴けるリズムパターンにはTheater 1に通ずるストイックさが既にある。おそらくこの時既にTheater 1的な音はCRZKNYの中に存在していたのだろう。
D.J.Fulltonoが日本におけるシーンの顔役であることは内外問わず周知の事実だろう。
Booty Tuneからのリリースの中でも最近の2枚の「My Mind Beats」シリーズでのTrack群と彼が現場で繰り広げる独創的なDJプレイには毎回溜息しか出ない。
このEPやDJプレイ(必聴!)を聴くと、やはりというかCRZKNY同様にTheater 1へ流れていく熱量のようなものを感じずにいられないし、お互いが求めていてその時点で手にしていなかった音をお互いが持っていた必然的なユニットという思いが強くなる。
お二人がミニマルなテクノにどのように関わってきて、ミニマルなテクノに対する意識がどれくらいあるのかは存じあげないが、ビートの純粋さというか、リズムパターンへの飽くなき追求を重ねた結果、今ここにたどり着いているという感覚が生々しく興奮する。これは終着点でないことは明らかだが、この先に何が出るのかが想像つかない。そういうスリルを味わえる音というのは、やはり本当に貴重だ。
ここに来て他ジャンルのミュージシャンからの「Juke/Footworkなるもの」や「他ジャンルのエッセンスを取り入れたJuke/Footwork」ではなく、Juke/FootworkのメインストリームからTechno的なるものが現れたのは本当に刺激的だし、紛れも無く広義のダンスミュージックにアピールする魅力をJuke/Footworkが持っていることの改めての証明がしっかりなされている。長々と駄文を重ねてきたが言いたいことは一つ、ただただカッコイイ。
毎月恒例のリリース、今月は12月ということもあってジャケットにクリスマスシンボルが入っているあたりがまたニクい。
未聴の方であれば、6EP12Tracksをはじめから通して聴くという羨ましい状況が待っているし、今多くのノスタルジーを誘いながら生まれているなんともアンビバレンツなこの生々しいビートはぜひ体験していただきたい。