そのドアを開けたらゾンビがいる

わかっているんだけどねぇ〜☆

2015年にKindleで読んだ本 #読み終わった本リスト Advent Calendar 2015

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他の媒体に比べると本というのは(かなり偏食的な読者だということもあり)なかなか読む機会が少ないのですが、Kindleを買ってから少し読む量が増えましたので、(もしかしたら電子書籍は主旨から外れるかもしれないのですが)ちょっとお腹に力を入れて参加してみます。

電子書籍で読む場合、フィジカルに本をしっかりと用意して、あるいは忘れずに持ち歩いて「さあ読むぞ!」といったテンションというより、「あ、そういえばこれ読みかけだったな、フム」とか「お、こんなの出てるのか、ちょっと読んでみるかな」といった気軽なテンションで本を選び、買い、そして読んでいるので、私の場合は良い意味でその本を手に取る(つまり買って読む)敷居が下がってくれています。

そういう、フィジカルな本であれば手に取らなかったかもしれないと感じたもの、その中でも手に取るキッカケが「映画」だったもの(人)の作品を2冊ピックアップします。

 

高峰秀子さんとそのエッセイ
浮雲 [DVD]

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にんげん住所録 (文春文庫)

にんげん住所録 (文春文庫)

 

高峰秀子さんのといえば良いのか、成瀬巳喜男監督のといえば良いのか、成瀬映画をまとめて観ようと思うと結果的にはそこそこの高峰映画をまとめて観ることになります。全てを観きったわけではなくまだいくつか取りこぼしがあるのですが、それぞれの作品の中の高峰秀子さんは自然体のように見えてだいぶん違うキャラクターを演じ分けている。

スゴい女優さんだなぁと感心して観ていたのですが、日本映画歴代トップクラスの大女優な訳でスゴいのは当然。でも、そんな人なのに早々に女優業は引退してエッセイのようなものを執筆したりしながらセミリタイア生活をしていたという。はたしてどんなものなんだろう?と気になった時に電子書籍版が売っていて買ったのがコレです。前置きが長い。

映画での高峰秀子という役者さんは、まあ役者さんですからそれぞれの役をそれに必要な情熱とスキルで演じていると思うのですが、だから映画と実物は違うのよ、という感じがここまでチャッキリ出てくれると気持ち良いくらいに、エッセイを読んでからの高峰秀子像というのが別に浮かび上がってくる。

映画の中ではどちらかといえばキャラクターとしての女性らしさというか湿っぽい感じも多くいろんな運命に左右されてなんてことが(まあ映画ですから)多く感じた高峰さんなんですが、エッセイから見える高峰さんはもうこれが江戸っ子でタフで世間知らずなんだけど情にスゴくアツい人で人見知りで面倒くさがりで、とその映画で観ていたキャラクターとはかなり離れます。

ただね、もう圧倒的にキュート。これを書いてる時はもう70歳を越えてらっしゃるので、こんな言葉を使って良いのかわからないけれどキュートなんです。文章の中で本当に生き生きしてる。好きな料理を前にした時とかのウキウキ感だったり、めんどくさいことにめんどくせーなーと吐き捨てるようなプリっとしたところだったり、あるいは夫に(ブツブツ文句を言いながらも)甲斐甲斐しく尽くしているところだったり、コンプレックスを十分自覚しながらもそれと程よい距離感を保って付き合っているところだったり、こうやって考えだすとこれは恋じゃないか?と思うくらいにキュート。めんどくせーなーみたいなところも全然隠さないあたりは、実生活ではその役者なイメージとの乖離でいろいろと大変だったろうなと思います、本人も周りも。

読み進めていくと感じる、この人の演技のスゴさはもしかしたら幼少期からいやがおうにも培ったであろうコレが理由なんじゃないかしら?と思うくらいの観察眼の鋭さ。目の前にあるモノだったり起こったコトだったり出会った人のことをパリパリっと的確なサイズに切り取った言葉で表現するし、そこにちょっとしたオシャレなフレーズが自然と紛れ込んでくる。オシャレといっても作為的なモノではなく、あれ?この人天然か?みたいな、シーンと演技の違和感みたいな感じのアクセントとしてのオシャレ感がある。すっとぼけたところがある、とも言えるかもしれない。

そういうキュートでやんちゃな「大女優」というのが高峰秀子さんだったのかなぁと、映画とはちょっと違った一面を垣間見せてくれるステキなエッセイです。

 

 

岸辺の旅

岸辺の旅 (文春文庫)

岸辺の旅 (文春文庫)

 

kishibenotabi.com

黒沢清監督というと、多くは『CURE』などのホラー作品の監督というイメージでしょうか?私自身、元々そういう印象で観ていたのですが、シネマヴェーラでやっていたレトロスペクティブで過去の作品にふれ、特にホラー以外の作品とホラーに含まれる作品を短期間に一気に観たことでその世界にすっかりハマってしまい、それを経て『岸辺の旅』を観ました。

ここ最近、連続して黒沢清監督作を観ていて感じていたのは、この人は何を言うにも全部同じ表情してるのではないだろうか?という半ば狂気じみた感覚で、めちゃくちゃな事が起こったり全く意味不明な出来事があったりする事自体をそのままとして受け入れる態勢がこちらにも出来ていたので、アタマを空っぽに、ただ受け入れるがまま、というスタンスで楽しめた。

浅野忠信さん扮する役がいきなり自分は死んでる(幽霊)とカミングアウトしようが、成仏への旅みたいなのが始まろうが、オッケーという感じ。絵本を読んでもらって、これから鬼を退治に行きます!と言われて「なんで?」なんて思わなかった感覚なのかな、と思ったりもしていて、監督作をスゴく映画っぽいと感じているのも変な話だけれどもそういうところだと思っている。うまく言えませんが。

その中でも今回はなぜか「声」にとても意識が向いて、深津絵里さんの声は本当に映えるしかわいいなぁ、とか、浅野忠信さんのザクザクしたディストーションをかけたような声は案外心地よいものだなぁとか考えた。

映ってる時間こそ短いが蒼井優さんの怪演も良かった。

銃声は聴こえなかったが、滝の音がそのかわりのようだった。

ステキとスゴイの中間の言葉があれば、それが感想になります。

岸辺の旅(2015)の映画レビュー(感想・評価)・あらすじ・キャスト | Filmarks

映画の感想はこんな感じだったのですが、黒澤作品の多くはご自身が脚本も書いているので、正直原作を読むことで幾分ガッカリするようなことがあるかもしれない、と思ったのも事実です。

でも、原作の冒頭をサンプルで読み始めてみて、ああこれはもう完全に黒沢清じゃないか!とビックリしました。

あたった黒胡麻に砂糖を混ぜ合わせて餡をこしらえ、さてこれをしらたまでくるもうと思ってふと顔をあげると、配膳台の奥の薄暗がりに夫の優介が立っている。しらたまは彼の好物だったし、こんな夜中にきゅうに食べたくなったのは妙だと感じてもいたから、「ああそうだったのか」とすぐに思った。

岸辺の旅 (文春文庫)

これは小説の始まりなのですが、同時に映画冒頭(予告編のちょうどはじめの部分)にあたるシーンです。

なんというかテンション・温度感も私にはほとんど同じに見えました。スススっとこちらに寄ってきてしずかに寄り添われているような、おとなしくも激しくもなくただただ日常を切り取ったものが目の前にありました、といった趣きでそこにはあります。

たびたびテーマに上がる「死」というものに関するスタンスも非常に違和感なく、お二人のそれが近いのかもしれませんが、映画から先に入った私に「これは黒沢清さんの小説ですよ」と言われても全く疑わないし、もしかしたら小説から入った人に「これは湯本香樹実さんが監督した映画ですよ」と言っても疑わないかもしれない。

全くの別人が書いた・撮った2本の作品が、たとえそれはどちらかがどちらかを基として生まれていたとしても、ここまで違和感なく受け入れられるというのは、少なくとも私には経験がない(大体がどちらかのことが好きすぎて、あるいは印象が強すぎて、どちらかをうまく受け入れられない)。

このある種双子のような作品、私は映画から入ってとっても気に入ってしまっただけに、願わくば映画を全く観てない状態で本を読んでから映画を観てみたい。そうしてみたら感想がどう変わるのかを知りたい。でもきっとそれでも同じことを思うんじゃないかと感じています。

 

 

どちらも映画を観た後でもんやりと頭の中で感想だかなんだかの考えをこねくり回しているくらいの時期に、さっと本に手を伸ばせたおかげで楽しく読めました(それもどちらも一気に読みきってしまった)。

思い立ったが吉日、みたいな軽いノリで本を読むのもなかなか良いな、と思います。

 

 

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