ボクのレゲエ体験の一番古い記憶は、大学生の夏、部屋のクーラーが壊れてかけて効きが弱く、暑くて暑くてたまらない状態で、CASIOのワープロに向かって訳の分からない文章を書きなぐっている時まで遡ります。
もうあまりに中途半端で煮え切らない文章とクーラーの効き具合に腹を立て、クーラーを止めて窓を全開にし、ステレオにJimmy CliffのLive盤『In Concert: The Best of Jimmy Cliff』をいれて、汗を文字通りだらだら流しながら、可能な限りの爆音で聴き、またCASIOのワープロに向かって不毛な文章を書きなぐり続けました。
それはもう本当にアホらしいことなんですが、なぜかスゴく快適だった。正確に言うと快適ではなく、快適じゃない状態でなるリディムが気持ちよかった。快適じゃない状況をすっ飛ばしてくれる感覚がありました。
その時の暑さとウーハーでばっちり効かせた低音はその後のジャンルとしての『DUB』に求めるボクなりのイメージを勝手に構築しました。
出音はあくまでむさ苦しく、CASIOのワープロくらいシンプルかつ無骨で(しかも壊れにくい!)、まとわりつくようなサウンドエフェクトをあえて選ぶその異常な精神状態、けっしてクールとは言えないその発想。クーラーがあるのにわざわざ切ってわずかに吹く風の中で、Tシャツ脱いで汗をだらだらかく無駄な雰囲気作り。なんというかそういう偏執狂的な変態性をこの音楽には求める身体になってしまった。
そして、ボクは今、何度目かは覚えてないですが、PolePoleTaxi SoundsystemのミックスCD『SC-DUB-A』をBoseのヘッドフォンを使って聴いています。
このミックスCDを聴いた時、一番始めに思い出したのがその原体験みたいなもので、ボクはこの人と一緒に非快適な空間でビールを飲んだりしたいと思った。
勝手な妄想ですが、このミックスは非常に屈折していると思います。オープニングの「ラスタファーライッ!ラスタファーライッ!」という連呼が、徹夜明けの新宿のガード下、なんかではなく、放課後の校舎の裏の誰も来ないちょっと死角になった自分だけのスペースで、ひっそりと小声でつぶやかれているような、ドロドロとした濃いものに聴こえます。きっと彼はそこで『ダブの発見』をしたのではないか?
ディレイの残響でフェードアウトしたかと思えば、もっとぐにゃぐにゃするエフェクティブな音でつないでくるその感覚は、ボクには太陽の下、というよりも曇り空、あるいはちょっとタバコの煙が充満しだして息苦しい箱のなかで、快適さを探しているような感じがします。
たまに快適な歌声が聴こえたりすると逆に違和感(それこそエフェクターから何かが飛んできたかのような)を感じます。それが気持ちがいい。違和感の気持ちの良さこそ、『DUB』の持つ(精神的)歪みの気持ち良さじゃないかしら。
このミックスは個人的に、「DUBってどんなの?」って思う人にとりあえずこれを聴けば良いですよ、と薦めるのに最適な1枚だと思います。同時に、この1枚はかなり長く聴けるアルバムなので、いわゆる「入門盤」ではありません。
でも、リー・ペリーやオーガスタス・パブロのクラシックなアルバムを薦めるより、このミックスを体験してもらった方が、なんかいろいろと話が早い。
もし、そこで興味を持ってくれたら、そこからは『Super Ape』でも『King Tubbys Meets Rockers Uptown』でも、このミックスに入っているようなUKニュールーツ系でも、道は自然と開けそうだし、迷ったら「WASEDA STREET JOURNAL」を読めば良いです。
このミックスCDが買えるのは、今のところ、SHOP TTさんのみのようですが、わずか1,000円です。
ただ、これでハマってしまうと、これからたくさんお金を使ってしまうかも知れないから、注意してください。
PolePoleTaxi Soundsystem Mix CD "SC-DUB-A" now on sale !!! (SCUBA)