エドガー・ライト監督の最新作『ベイビー・ドライバー』をシネマシティ爆音で観てきた。
薄目で見ていた前評判の感じから、この映画はかつて自分が徹底的に打ちのめされたような10年代にとっての『パルプ・フィクション』になるのでは!?とまでに勝手に期待を膨らませてしまい、その自分の期待に逆に心配になって観終わるまで気が気ではなくなっていたのだが、その上をいく満足度を返してもらった。やっかいな客だ。
この素晴らしい映画はミュージカル的なカーアクション映画、というような形容がされるタイプの映画だが、むしろ「音ハメ」と言ったほうがイメージが伝わりやすいかもしれない。普通ならBGMとして寄り添う劇中曲をこれでもかと全面に引きずり出し、芝居の方から音楽に寄り添いに行く、そんな感じの関係性だ。 音楽と映像の親和性という点で個人的なピークとして記憶に刻まれているColdcutの『Timber』というMVがある。
Coldcut & Hexstatic - Timber (HQ video/audio)
動画内の音声をサンプリングして音楽にした挙句さらにその元動画を演奏するかのようにMVにしているので『ベイビー・ドライバー』と並べるものではないのだけれど、この曲や同時期に局地的に流行ったイーボマン、日本ならHIFANAの作品などから味わえる体感的な気持ちよさが間違いなく『ベイビー・ドライバー』にはある。
音楽を身体で味わう時のあの気持ちよさだ。
その『Timber』とは違い、『ベイビー・ドライバー』では既存曲に動きを合わせに行く。それもかなり能動的で、BGMとして流れる劇中曲との偶然の一致や編集の妙みたいな感じではなく、文字通り主人公はiPodで音楽を選んで再生して自ら音楽を聴きに行き、そしてそこに動きを合わせに行く。音楽に動きをハメた時の快感をわかっていて求めに行っている。
それはオープニングの『Bellbottoms』を聴きながら行われる強烈にカッコいいカーチェイスのシークエンス後の『Harlem Shuffle』を聴きながらの通勤(?)シークエンスでダメ押ししてきたあの前のめりのスタンスにより明確で、自分の日常ムーヴを音楽に合わせに行く習慣のある者ならあのシーンで首がもげて足元に転がるくらい頷いただろうし(どこかにいかないように落ちたアタマに片足を乗っけてる)、聴いている音楽に自分の動きを合わせに行っちゃう気持ち良さをここまで肯定してくれるともはや今後は公共の場でも遠慮なく音楽にあわせて自由に動ける(動かない)。
これはそういうたぐいの映画だから遠慮なくリズムを取りなさいな、と言われているような気分で、隣の人に迷惑にならないように控えめな動きにするのに必死だった。
しかも、それをカーチェイスですらやっちゃっているというのが、もうなんというか脱帽です。
Baby Driver (Music From The Motion Picture)
- アーティスト: V/A
- 出版社/メーカー: BABY DRIVER
- 発売日: 2017/06/23
- メディア: CD
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曲目リスト
ディスク:1
1. Bellbottoms - Jon Spencer Blues Explosion
2. Harlem Shuffle - Bob & Earl
3. Egyptian Reggae - Jonathan Richman & The Modern Lovers
4. Smokey Joe’s La La - Googie Rene
5. Let’s Go Away For Awhile - The Beach Boys
6. B-A-B-Y - Carla Thomas
7. Kashmere - Kashmere Stage Band
8. Unsquare Dance - Dave Brubeck
9. Neat Neat Neat - The Damned
10. Easy (Single Version) - The Commodores
11. Debora - T. Rex
12. Debra - Beck
13. Bongolia - Incredible Bongo Band
14. Baby Let Me Take You (in My Arms) - The Detroit Emeralds
15. Early In The Morning - Alexis Kornerディスク:2
1. The Edge - David McCallum
2. Nowhere To Run - Martha Reeves & The Vandellas
3. Tequila - The Button Down Brass
4. When Something Is Wrong With My Baby - Sam & Dave
5. Every Little Bit Hurts - Brenda Holloway
6. Intermission - Blur
7. Hocus Pocus (Original Single Version) - Focus
8. Radar Love (1973 Single Edit) - Golden Earring
9. Never, Never Gone Give Ya Up - Barry White
10. Know How - Young MC
11. Brighton Rock - Queen
12. Easy - Sky Ferreira
13. Baby Driver - Simon & Garfunkel
14. Was He Slow (Credit Roll Version) - Kid Koala
15. Chase Me - Danger Mouse featuring Run The Jewels and Big Boi
サントラのトラックリストを観ると、なんというかしっかり掘ってきたもの、という感じがヒシヒシと伝わってくる。 幸運にも監督と同年代なので、オープニングでぶっ放すジョンスペ『Bellbottoms』や劇中でベイビーが作った曲として流れる『Was He Slow』をKid Koalaが作っていた!ことを始めとしてリアルタイムで聴いたアーティストの共有感みたいなラッキーな高揚だけでなく、それらを聴いていたときに周りの友達・先輩から教わったり自分で掘ったりして出会った過去の音源に垣間見えるジャンル横断な雑食的アンテナの方向にもシンパシーを感じまくって「オレならこれ入れる!」みたいな音楽談義をし出したらこれ、相当めんどくさい。『Easy』はオリジナルも良いけどそこはFaith No Moreのカバーの方でしょう!?とか。(ちなみにAppleMusicのプレイリストですが、きっとこんな感じになります。)
出演陣も、『MADMEN』ファンとしては以降なんとなく座りが悪い作品が続いていたような印象だったジョン・ハムがバッチリキマっていたのに喜び、本当に手を出しそうでヒヤヒヤするジョン・バーンサルの存在感にニヤリとし、ロケ地がアトランタなだけにKing of Southが出てきちゃったよ!みたいな雰囲気で登場したジェイミー・フォックスの格好にラップしかねないカッコ良さを感じ、その佇まいだけで最後までずっと安心できないケヴィン・スペイシーの緊張感に完全に予想を裏切られ、なにより恋のオチ際をやらせたらこの世代イチだと思っているリリー・ジェームズがもうたまらないくらいクネクネしててくれて(『ダウントン・アビー』も観て!)お腹がいっぱいです。ダーリン役のエイザ・ゴンザレス、タランティーノがつま先咥えたがりそうな美人だな、と思ったらドラマ版『フロム・ダスク・ティル・ドーン』でサンタニコやってたんですって!2話目で止まってしまっていたので再開します。
ストーリーについて全然触れていませんが、これまでのエドガー・ライト監督作品ほど元ネタを知らなくても思いっきり楽しめるし、まったく心配いらないので劇場で公開中に観れるようにどうぞスケジュールを調整してください。