そのドアを開けたらゾンビがいる

わかっているんだけどねぇ〜☆

マンブルコアの第一人者アンドリュー・ブジャルスキ監督の『成果』(原題:Results)をNetflixで観た。★★★★☆

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とってもめんどくさく、なんとも遠回りでややこしいラブストーリーです。登場人物もだいたいめんどくさい人しか出て来ません(そもそもそれほど多くない)し、大きな起承転結とか大胆なドラマ性が、という流れともかなり距離をおいた、あまり何も起きないタイプの作品です。だけどとってもいとおしいラブストーリーで、エンディングでのカタルシスは見事なものでした。つまり、とってもオモロかった!

莫大な遺産を相続した大金持ちで奥さんと別れたばかりでまだまだ未練がある男ダニー(ケヴィン・コリガン)、フィットネスジム「Power 4 Life」のオーナーでジムの運営とトレーニングには自身の哲学と愛情を多分に注いでいるトレヴァー(ガイ・ピアース)、そのジムの人気ナンバー1インストラクターでトレヴァーの元カノのようなそうでないような曖昧な関係にある直情的なタイプのキャット、この3人がお話の中心です。

裕福で怠惰な生活のダニーは離婚後、マリファナや酒も食事も好きにやり相続した遺産で悠々自適な生活を送っていますが、何を思ったかフィットネスジムに入会しプライベートレッスンでトレーニングを始めます。寂しさからか、心を入れ替えたのか、単に暇だったからなのかはわかりませんが、一応レッスンの間はキチンとトレーニングします。

自分のスタイルに忠実で生真面目なトレヴァーは自身の考えた「Power 4 Life」の信念に乗っ取り過ぎで、私生活のどんな話にでもトレーニングを比喩として出してしまうくらいスクエアなタイプ。犬のレイモンドと二人暮らしで趣味はドラム。大して上手いというわけでもなさそうです。

キャットはチャキチャキとしたタイプでジムでも人気者ですが、直情的な所に難があり、カッとして客とトラブルを起こすこともしばしば。トレーナーとしてはとても優秀なようです。

ダニーがジムに入会し、そのパーソナル・トレーニングをキャットが担当したことで3人の不思議な関係が始まります。

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悠々自適なダニーはまるで何かのシンボル(キューピット?)のような不思議な存在ですが、パーソナル・トレーナーのキャットをなんとなく口説こうと、トレーニングの予約に見せかけて自宅に人を雇って高価なディナーに招待し、あっさりきっぱりフラレちゃう。アプローチの仕方もフラレ方もなんとも不器用です。むちゃくちゃ情熱的というわけでもないが世捨て人というわけでもないらしいつかみどころのないキャラをケヴィン・コリガンが素っ頓狂に演じます。ケヴィン・コリガン、シリアスものもコメディーものも器用にこなします。今回はぽっちゃり太って登場。

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一応イケメン枠に入る役者なはずのガイ・ピアースはこういうスクエアな感じとかギークっぽい役とか(『アイアンマン3』の初めの格好は似合ってなさすぎ)やらせるとスゴいグイグイ魅力が溢れてくる。『L.A.コンフィデンシャル』がその代表作でしょうが、なかなか今作も良いんですよ。ピュアでアホで実直な筋肉バカ的なキャラ(失礼!)を実に魅力的に演じてる。それも、その魅力をモリモリだすべき後半にかけてのフェロモン・ダッシュとでも言うんでしょうか、それまで抑えてきたキュートなところを後半になってモリモリ~って出してくる。あなたもダメな男なのねぇっていう、しかも自覚もないのねぇ~っていうそういう感じを存分に出してきます。ホント上手い。

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そしてもうこれはミューズ誕生と言ってもいいコビー・スマルダーズ!マーベル・シネマティック・ユニバースでのS.H.I.E.L.D.の副長官マリア・ヒル役で知られていて出世作ということになるのでしょうが、もう断然これ、本作のコビーはちょうキュート。観始めた時はなんか似てる人だなぁと思っていましたが、こんな魅力的な人だったとは!?そりゃータラン・キラム(『サタデーナイト・ライブ』レギュラーのコメディアンでコビーの夫)も惚れるわ。マリア・ヒル役の時より10歳位若く見える今回のキャット役は、そのスタイルの良さもバッチリ活きてるし、明け透けな感じがガチッと魅力としてハマっていて(厄介だけど)たまらなく良い。

後半、最近流行りのケトルベルの第一人者グレゴリー、その妻エリン、トレヴァーとキャット、4人でのディナーのシーンのガイ・ピアースとコビーの掛け合いは最高だったし、それを観ている二人がまた良い。エリン役のブルックリン・デッカーはラジー賞ノミネート歴もあるがそれでもやっぱりキュートで今作もとても良いアクセントで空気が悪くなりそうな食卓を上手くコントロールしている妻を好演しているし、考え方もマッチョなグレゴリーを演じるは、なんとあのアンソニー・マイケル・ホール!まっっったく気づかなかった…。まあ、なんとも貫禄が出ましたが、トレヴァーの言うことを片っ端からたたっ斬っていく掛け合いも最高だった。

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トレヴァーのその煮え切らなさとか融通の利かなさも、キャットのキツい性格も、ダニーのやる気の無さも、最後にはふんわりと心地の良さげな着地点でとりあえずやってみるかね、という感じにエンディングを迎えた時、想像以上に良かったんですよね。それほど起伏激しい物語ではなかったと思うんですが、やはりトレヴァーが動き出そうとしたあたりからのクライマックスな流れからのエンディングが、ちょうど良い、という感じで。

『成果』という直訳なタイトルと少ない情報の映画なので、Netflixでの★が1つだけだったのがちょっとあんまりだよと悲しくなったので★4つをつけ、ホクホクした気持ちのままに感想を綴ってみました。スルメのように何度も観たくなる映画です。カテゴリとして『フランシス・ハ』『ハンナだけど、生きていく!』などでも名前を見るようになった「マンブルコア」という枠組みで話されることが多いだろう映画です。

監督はマンブルコアの第一人者、アンドリュー・ブジャルスキ。日本で観れるブジャルスキ監督の映画はこれだけというのが本当に悲しいくらい、この映画大好きになりました。どうか他の作品も日本で観れるようになってほしいです、Netflixがんばれ。

iTunesStoreにもあります。

Results

Results

  • Andrew Bujalski
  • コメディ
  • ¥1800